「思想地図」
東浩紀・北田暁大責任編集の「思想地図」という思想雑誌を買いました。
第一回のテーマは、「国家とナショナリズム」
どの執筆者も、若い。
平均執筆年齢が35歳というけど、35歳から下の若手の文章って、どの人の文章をとってみても、僕とほ ぼ共通の問題を抱えている気がする。
非常に難解な思想言語がどこどこと出てくるのだけど、 ぼくにはとてもしっくりと理解できた。
日記用に、ものすごく専門用語を使わないでかいてみる。
1990年代に大学に入って、ある程度の思想の勉強 してきた人間は、"社会構築主義"(social constractionism) の影響をもろに受けてきた。
その「考え方」は麻薬みたいなもので、そこからどうやって脱出するのか、というのがぼくら若い学生の前に立ちふさがっ た大きな課題だったのじゃ。
まあ、「戦犯」という言い方はおかしいのだけれど、こういう 考え方を世に広めたのは、柄谷行人という批評家である。
今でも名著として知られているが、柄谷行人の『日本近代文学の起源』を始めて読んだとき、僕のなかで何かがひっく り返った気がした。
すごく要約すると。
柄谷は、「告白という制度」のなかで、
「近代以降、自己を物語化して告白することによって、 逆に内面という考え方が発生した。そもそも内面なんてもの は、近代以前は存在しなかった。」
という考え方をする。
この考え方の文法はむちゃくちゃ強力なのである。
すっごい強引にわかりやすくする。
「つべこべ悩んでるんじゃないよ。
「自分がどう見られているか」
とか、
「自分がどんな問題を抱えているか」
なんてものは、「語ること」で始めて誕生するのじゃ。
「自分の内面を語る」という行為そのものがなかった時代 は、そもそも悩みなんてもんはなかったんだ。元気だそう ぜー」
みたいな思考パターンなんだけど。
こういう思考パターンは、大学で鬱病に悩んでいる青年たちには効果てきめんなのである。
そして、これ、ものすごく簡単にいろいろなことに当てはめられる。
実際、柄谷は、「日本近代文学の起源」のなかで、
「源氏物語はもともと文学ではなかった。そもそも、 近代以降、文学史ができてから、井原西鶴や源氏物語が 「文学」として位置づけられた。
文学史を作ることで、文学が誕生するのである。」
というこれもまたものすごいひっくり返しを行う。
「近代に○○することで、私たちの常識が作ら れてしまった。私たちの常識は、実は大昔からあった
のではなく、むしろ明治時代にできたんだ。」
という思考パターン。
これを突き詰めていくと、
「歴史とか伝統というものは、人間が全て人為的に作った ものにすぎない。」
という考え方になる。
すごくアナーキーだが、これまた強力なんだな。
で、90年代は、この思考パターンがとにかくはやった はやった。
「~の発見」とか「~の誕生」みたいな研究が、
どかどか出ました。
"児童の誕生"
「そもそも子供という考え方は、明治以前には存在しなかった。 明治以降に「学校」という仕組みができてから、はじめて子 供という発想が"誕生"たのだ。 「子供」という発想が生まれる前は、子供はみな、「小さな大人」だったのである」
とか。
"青春の誕生"
「せーしゅんってさ、13歳くらいで結婚してた江戸時代の 人にはそもそもなかったんだよねー。だって、青春になる 前に結婚がまずある。自由恋愛とか、そういう「個人」と してがんばろう。という考え方が輸入されてから、恋に悩 む若者が生まれたわけで」
とか。
そもそも○○は、と言い始めるあたりから、
「ちょっと構築主義チック」な考え方がどこどこ出てくるわけ でして。。。
で、これをどんどん突き詰めていくと、ぼくたち、やっぱり 鬱になってくるわけですよ。
あれも「人工的にできてきた」、これも「人工的にできたものだ」
「そもそも僕らの考え方も人工的なわけでしょ」
みたいな感じになると、何もできなくなってしまう。
確かにそれは「思想的には正しい」のかもしれないけど、じゃあどうすんのよ。という処方箋をあたえてくれるわけではない。
実際に行動する上でプラスのモチベーションにはならないわね。
で、元気出そうぜ-。と柄谷に言われて、ぼくらも元気になったつもりでいろいろ考えていったんだけど、
結局、思想的には「全部作られたものなんだよね」という結論になってしまう。
だから、いまさら何かをがんばって研究する必要はないじゃん。
ということで、
勉強すればするほど、もっと深刻な鬱病にかかってしまうという。。。
『ポストモダンの悪循環』。と言われる現象が起きるのです。
(典型的なのが僕でした)
「思想地図」は、おそらくそんな90年代を過ごして来た人たちが、
「じゃあ、わかった。わかった。世界が、全部作られたものだ というのはわかった。じゃあそれでどうするのよ」
という新しい考え方を提示していくという壮大な思考実験。
この人たち。あたまいいわー。
前半のシンポジウムで、ものすごい入り乱れていっぱい討論をして いるんだが。。。
いやー。あたまよすぎて何を話していたのか要約できん。。。
ただ、評論が20本くらい書けそうなくらいアイデアをたくさん もらった。
1500円。安いです-。
強く強くおすすめしますですー。
〈初出・mixi日記 2008年6月11日)
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