花山多佳子『木香薔薇』を読む(愉快な花山一家のこと) | ダストテイル-短歌と散文のブログ-

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花山多佳子『木香薔薇』を読む(愉快な花山一家のこと)










本日のご紹介は、花山多佳子さんの第七歌集『木香薔薇』

花山多佳子さんは、不思議な感覚を持っている歌人だと思います。
その不思議さがうまく表現できるか自信がないのですが、たとえばこんな歌はどうでしょうか。



・閉めた蛇口にふくらむ水がぶるぶるとふるへては落ちふるへては落つ

・抽出しにずつとありたるライターに立ち上がる火のむやみに高し





何と言えばいいのか、ありありとした物事の描写と、ユーモラスな感受性のちょうどあいだぐらいを歌っているような感じといえばいいのでしょうか。

蛇口の水が「ぶるぶるとふるへては」というひらがなづかいには、なんとなくこちらの気持ちまでぶるぶるゆさぶられそうなおかしみを感じますし、実際の描写といえば描写といえなくもない。

ライターの歌も、ひきだしにずっと放置しておいたライターの火が、突然「しゅぼっ」と大きな火が出て、びっくりする、という経験は私たちにも感じられる状態だとおもいますが、この歌の場合、「むやみに」が面白いように思います。この「むやみ」には、作者のユーモラスな感覚と一緒に、現実の光景が立ち上がってくるような印象があるようです。



・日々にながめて息子が怒るすさまじき女二人の散らかしやうを

・戻り来て畳に倒れ込むわれに「そのまま」と言ひ、むすめ写生す

・わが眉毛すぐ抜きたがる娘ゐて夜ふり向いたときが危ない

・折をりにつかめなくなる夫の所在そのときにのみ夫はあるも

・マイナスの額(がく)の大きさに驚きてもはや記帳せず記憶せず





この歌集には、家族を歌った歌がけっこうたくさん出てくるのですが、この家族がまた、なんというか「愉快な花山一家」としかいいようのない一家です。いったい、この一家はどんな暮らしを送っているのだろうと想像したくなってしまいます。

このお宅では、ときどきだんなさんがいなくなるらしい。家は散らかしっぱなしらしい。そして娘さんが絵をやっているらしい。ときどき疲れたお母さんを写生しているらしい。眉毛を抜きたがるらしい。そして家はどうやら大赤字らしい。。。

もう、よくありそうですが、仲の良さそうな家族の生活がそのままユーモラスに歌われています。

そういえば、花山多佳子さんの娘さん、花山周子さんも歌集を出されており、第一歌集『屋上の人屋上の鳥』が、今年の「ながらみ書房出版賞」を授賞されています。(どうも市場ですでに売られていないのが残念です)



蒲団より片手を出して苦しみを表現しておれば母に踏まれつ(花山周子)

私と弟が言い争うとき母の集中力がアップするらし(花山周子)




なんというか、この母にしてこの娘あり。という感じのほほえましい家族なのです。花山周子さんの
歌集は、歌の数では800首以上もあるというすごいお得感のある歌集なのですが、なかなか読み応えがある歌集でした。

花山多佳子さんの歌集も470首。それでも最近の歌集としては、数はかなり多いほうでしょう。どの歌もひとつひとつ、時間をかけて読みたい感じがします。これ以外にもいくつか好きな歌を引いてみましょう。



・ばかでかくなつてラインの真つ直ぐな苺はいちごといふ感じなし

・春となり毛のぬけかはる白うさぎ凹凸のあるかたまりとなる

・すべらかな幹は下へとゆるびつつ肉感もちて根のもりあがる





楽しそうな歌を3首ひいてみました。これらの歌は「楽しそう」というよりも、作者の視点が、あるいは発想がとても「自由でのびのびとしている」感じがします。

1首目、言われてみれば確かにそうですが、「ばかでかくなつて」っていうすこし乱暴な言葉づかい、あんまり女性が使う感じの言葉ではなさそうですよね。作者は全然気にせず、逆に自由にありのままに歌った感じが、おもしろい歌だと思います。

2首目、3首目ともにぼくの好きな歌です。2首目、うさぎがもこもことしたかたまりになるというのは、なんともかわいらしいですが、ほんとうのことのようですね。ものごとの見方をちょっとずらすと、こういうふうに見ることもできるという例ではないでしょうか。

3首目。短歌の世界では、「肉感もちて」というようにあまり説明的にしないほうがいいとよく言われるのですが、この歌の場合、「肉感もちて」ということで、逆にものすごく肉感があるような感覚におそわれます。不思議な力強さのある歌です。



・摘まれたることを知らざるひるがほが夕べの卓に花閉ぢてをり

・三叉路にたつてゐるゆめ三方の道に一つづつ柩置かれて

・夕空に高く帽子を投げ上げよ蝙蝠がつられて落ちてくるゆゑ





こちらはどちらかというと、少し翳りを帯びた雰囲気のある歌たち。3首目の蝙蝠の歌は、夢想のような本当のことのような味わいがあります。

とりあえず紹介としてはこのくらいにしておきましょう。

たとえば歌集というのは、短くて量が少ないように見えますが、一首一首を読み解いていく時間を考えると、意外と長く楽しめるものだと思います。

すこし集中して、丹念に時間をかけて何かを読みたいとき、こういう歌の一つ一つを、じっくりと自分のなかで消化してゆくというのは、なかなか楽しい作業だと、私は思っています。

歌集としても、装丁も字体も少しレトロな感覚で、なんともいえず良い手触りのある歌集だなと思いました。持っていたい歌集の一冊だと思います。

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